その他

  地元の結社に発表したものや、ボツにした短歌(コンテストに落選したものを含め)などを集めて再編集した短歌集です。

紅い街角 12時の魔法 七つの海へ カオスの解答
白きハイウェイ モノクロームの雨 大陸の風 安全神話
台北の夜 酸性雨降る    


酸性雨降る(1999年発表作)

渋滞の車の列に同化せし吾の車も停滞の中
いつ故障するか分からぬ二千年問題抱へしパソコン使ふ
この瞬間核実験のありなしや吾の体に酸性雨降る
建設の予定なきまま空き地増ゑバブルの夢の遺跡となりぬ
腕時計故障し心も時間に支配されてゐる事に気付く
大国の主義主張のみ乱れ飛ぶ何かが違ふコソボ情勢
消ゑてゆく歴史心に刻み込みトランシットに闇市測る
里山の消ゑゆく姿背景に住宅フェアの看板の立つ
良心の垣根を越へし人間のインターネットの中にうごめく
細胞にダイオキシンを蓄へてテクノロジーの虚無を吐き出す


TOP

台北の夜(1999年発表作)

曇りたる空に向かつてジェット機の関空飛び立ち台北へゆく
一時間得した気分に台北の時刻に吾の時計を合はす
中国は一つと言えど台湾の中華民国の意識は捨てず
ひとごみに溺れて迷ふ台北の直線道路の残像の中
権力の夢まぼろしの抜け殻の故宮の中に並べて眠る
台北の国内線の飛行機の列車の如く無数に飛び立つ
大理石峡谷の中ポッカリと台湾形した空の広がる
見下ろせるデルタの中にも街灯の輝きありて台北の夜
夜の更けるほどに人込み溢れくる士林夜市の時間の過ぐる
見慣れない屋台に並ぶ食べ物に興味はあれど食べる勇気なく
日本語の聞こえし方向振り向けどアジアの顔にかき消されゆく


TOP

安全神話(1999年発表作)

大陸のかほりに吾の空想の世界を巡る黄砂降る午後
希薄なる人と人との関係のインターネットの中につながる
夕闇に輝く惑星列なしてまづ水星より西へと沈む
一雨の過ぎ行くほどに裾野より空に向かつて山桜咲く
雁の群れ北を目指して飛んでゆく空にピースサインを描いて
原発の安全神話疑つて伊方を西に車走らす
だんだんと日差しの強くなるほどにパンジーの花小さくなりゆく
新調のスーツに着られし若者の瞳に未来の希望こぼるる
一つづつ花を咲かせて庭先に春色重ねる風のマジック
潮の目の変はりに沿つてせせらぎのそこのみ長き直線を引く


TOP

大陸の風(1999年発表作)

北側の窓の景色はどんよりとした雪雲の世界となりぬ
幸せになりたい吾と幸せになれるもんかと問ふ吾のゐる
作業着のポケットから出すハンカチは三日洗はずくしゃくしゃのまま
十キロを越へて走らば重力が足から体にしがみつきゆく
北風が大陸越へて海越へてまた山越へて吾を震はす
海の青花街道の色彩も散らばるごみのモザイクの中
カリヨンの音色の中へ踏み出した吾の一歩は風より軽く
どうしてが言葉に出ずにわがままが言へずに吾は吾傷付ける
冬枯れの大樹の梯子つかまりてそろりそろりと昇る満月
少しづつ加速してゆく情報のスピードの中吾は戸惑ふ
寒暖の昼夜を重ね街路樹のくれなゐ日に日に鮮やかになる


TOP

モノクロームの雨(1998年発表作)

くぢらでも見へないかなぁと波の無い太平洋に向かひつぶやく
しのびよる南の雨風吸ひ込んで赤良木トンネル霧を吐き出す
一週間ぶりに晴れたる夜の空に満天の星ひときは輝く
空白の頭の中を満たしたい夢見つからず見上ぐる空を
用水に半分つかり揺れながらみづいろになる紫陽花三つ
一瞬の夕立の雲追ひ払ひ大地駆けゆく七月の風
リストラといふ名の美名に消ゑてゆく企業戦士に吾はならない
曇りゆく空の向かうで宇宙へとスペースシャトルが駆け抜けた朝
百キロのハイウェイ銀河かけぬけて真夜中一人流星ドライブ
こんなにも人あふれくる街なのに心はどうして孤独になるのか
土佐湾の沖より寄する台風の波涛体を強く揺すれり
少しづつ強くなりゆく雨音のモノクロームの世界の中に
トンネルを抜ければ目の前現はるるブルーの海へと車走らす


TOP

白きハイウェイ(1998年発表作)

かげらうのゆらめく中に飛び込んで白き車は大地に溶ける
つたへたい気持ちはいつぱいあるけれど口から出るのは1/5以下
この雨が上つて晴れたら新しいシューズを履いて街へ行かうか
青空へ放射状に伸びてゆく杉木立は空を支配する
顔面をしたたり落つる汗拭ひ天を仰げば真夏の太陽
さつきまで青空だつた筈なのに気付けば厚き雨雲の中
土曜波海の果てからやつてくる遠き嵐の気配を連れて
スピードの臨海越へて細胞がスピード感ずる加速してゆく
こんにちはあいさつ交はすその度に山人達はやさしくなれる
秋風が日に日に優しく変はる頃ツクツクホウシの数は減りゆく
往来もなく消えてゆく過去の道ふもとを見れば白きハイウェイ


TOP

カオスの解答(1997発表作)

スクランブル交差点の向かうから押し寄せてくるひとひとひとひと
青空へくるりくるりと円描き鳶は自在に天へと地へと
国道を街から外れ走らせばプレアデスの数は増えゆく
風止めば梅のかほりがだんだんとシャワーとなりて体に溶け込む
複雑な女心はむつかしいカオスの式を解くかの如く
自動車のガラスを息でくもらせてひとこと書いたおやすみの文字
ひつじ雲真横に見ながらジェット機は気流に逆らい目的地へと
留守電の声でもいいから聞きたくて何度も何度もリダイアルする
明の空一等星の輝きを放ち東へスペースシャトル
アクセルを夜明けと共に上げてゆくスカーレットの草原の中
はぐれ雲だんだん形を失つて空の粒子へ溶け込んでゆく


TOP

七つの海へ(1995〜1997発表作から編集)

駆け足の桜前線追ひ越して北へ北へとハンドルを切る
メドゥーサの瞳を持つた君だから吾の心の自由も奪ふ
虹色の雫に閉ぢ込められてゐる七つの海のH2O
風を追ひ風追ひ越してハンドルを握るその手のリズムを刻む
雨粒のひとつひとつに神様の恵みをつたへ吾をつらぬく
我々は時代の分岐点といふアウシュビッツで未来を手探る
頬つたふ君の涙も限られた地球の資源水の一粒
だんだんと遠のく意識に注ぎくるる口にやさしきワインの紅
六分儀で十度位の空の晴れ水平線の檸檬色になる
わがままな女心をつつみこむ大きな海に吾はなりたい
待つてゐるサーフライダー目を閉ぢて大地揺るがすビッグウェーブを
この吾を揺さぶる地球の躍動感台風闇の日本を駆ける
台風でとばされ迷ひ込んだのか浜辺の林に蛍が一つ
畦道に咲く彼岸花野火のように日に日に大地紅く染めてゆく
稲刈りの音を遠くに聞きながらレンズの中に閉ぢ込める秋
高速に四国山脈越へて来たトラック荷台に雪積んでゐる
ガラス窓開けたら部屋に舞ひ降りた今年最初の白き妖精
君思ふ心は富良野の雪のやうにまた積りゆくまた積りゆく
動きゆく日差しと共に土佐湾の海のあをさは濃く淡くなる
きらきらと輝く太平洋を越へ貿易船の七つの海へ


TOP

12時の魔法(1996発表作)

12時を時計の針が指したならイブの魔法は現実に変はる
ロマンスの神様だけが知つている二人の今後の未来予想図
真夜中に輝く月のその形アルファベットの“D”の字してた
次々と満開になる野や山の花を従え春風の吹く
室戸岬海のパノラマ300度海と空とが球で交はる
吾だけがとり残されてゐるやうな人込みの中見知らぬ都会
アメリカの君も日本のこの吾も同じ地球のフィールドに立つ
なあ海よオレはこんなにちっぽけだだけど希望はおまえに負けない
信じてる信じてないの中間でグラスの酒は静かに減りゆく
いつもとは違ふルージュのその色に強がる女の本音がチラリ


TOP

紅い街角(1986〜1994の作品から再編集)

冬の空見上ぐる星はオリオン座神話の声の聞こゑるやうだ
振り向かば身の退けさうな谷底へパウダースノー身を踊らせる
頬笑んだ君の笑顔は誰のものせつない気持ちで胸が苦しい
アスファルトこんな地面にゃ負けないぞ雑草たちの小さな反抗
ハイウェイはヘッドライトの天の川吾は流星君と旅する
巻き貝が海へ行かうかやめやうか波打ち際にいつたききたり
不況にて仕事なくなり都会より帰りて人の優しさに会ふ
一粒の涙の中に君がゐた戻れはしないあの日あの時
もう少し素直になれればよかつたに言葉はうらはら悪口ばかり
あんな奴嫌い嫌いと思う度心に残る悲しい気持ち
残り香がほのかにかほる街角に昔の女の影思ひ出す
目の前にワイングラスをかざしたら見ゑてくるのは紅い街角
スキーヤークライマーたち避けながら雪渓の上にシュプール描く
白山の神の夜明けと歓声と山で出会つた仲間の笑顔と
青空へ目掛けてヨット走らせる海の男の浪漫をのせて


TOP