地元の小さな文集に出している短歌です。(それが文集・寄せ打つ波という文集です)本当は、この文集では、短歌以外にも下手な短編から詩,エッセイなども書いたりするのですが、今は短歌だけの発表です。
| オータムレイン | 戦闘機飛ぶ | 訪問者来る | アジアの果てに | 希望の破片 |
| 瞳・流線形 | 夜桜変化 | 青の球体 | モラル | 風の誘惑 |
| バッハの譜面 | 空白の時 | ランナーズ・ハイ | 春の足音 | 六月の風 |
| ロケット花火 | 野獣の六感 | 都会のブルー |
都会のブルー
何もかもパワーシフトに動きゆく不穏な時間の支配する今
伸びてゆく入道雲の白き塔吾を追ひ越し青空消しぬ
ネガティブな気分になるほど強く降る雨音吾の鼓膜に響く
眠れない夜に一個の物体となりておもむろベープ付けたり
蚊に刺され思ひ切り掻く傷跡を流るる赤き血の線二本
時間のみ無常に過ぎゆく真夜中に脳に溶けゆく秒針の音
横綱のやうに拍手強く打ち両手に潰す飛ぶ蚊一匹
雲もなく東西南北みづいろの空だらけそして体に猛暑
沈黙を守り続ける吾照らす真夜中の月真夜中の星
だんだんと傾く太陽この吾の立つ影法師長くしてゆく
ゆつくりとまたゆつくりと等速に吾自動車のアクセルを踏む
水色の一色となり吾の目に溶けて消へゆく都会のブルー
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野獣の六感
暖房の効いた部屋から抜け出せば風に奪はれる体のぬくもり
冬将軍細胞の中溶け込んでだんだん吾を冷たくしてゆく
吐き出した空気の白き粒となり周囲をつつむ二酸化炭素
回転をする駒となるつむじ風吾の右横足早に過ぐ
体内の進化のモード裏切つてなんにもしないごろ寝の休日
ビジネスの中に投影されてゆく吾の細胞ゲノムの一端
カフェインの体に摂取するほどに目覚めさせゆく脳の断片
オレンジのモノクロームの夕暮れに吾の体も同化してゆく
非情なる現代社会のマイコンのチップとなりぬ吾の肉体
ヒットマンみたいな気持ちその奥に隠して夜の街吾一人
魔物棲む都会の闇の路地裏に立つ吾取り出す野獣の六感
脳にゐるイデオロギーを追ひ出して常識だけの都会抜け出す
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ロケット花火
フォーマルな服に着替へて外に出るいつもと違ふ表情をして
純白の胡蝶蘭の花揺るる冷気の強きクーラーの下
渋滞の車の横をスイスイと吾スクーター快適運転
思ひ切り天へと背伸びする吾を塀に居座る白猫見つむる
偶数と奇数のやうな運命に翻弄さるる吾の現在
昼に鳴く蝉と夜鳴く虫の音を聞き分けながら一日過ごす
心臓のリズムの体駆け巡るほどに遠くへ遠くへ走る
満月の空にめがけて友人と無数のロケット花火放てり
真夜中の深淵の中にカチカチとクウォーツ時計の音のみ響く
無情なる吾の心に非情なる現実の闇襲ひかかれり
目を閉ぢたその瞬間から体内の脳波ノンレムレムに旅立つ
根気よく同じ時間を重ねればきつといいことあるさと思ふ
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六月の風
静寂の朝の空気を切り取つて天空に舞ふ一羽の燕
自動車の窓開けたなら新鮮な初夏の空気に支配されゆく
この吾の姿に驚き青空にカオスとなりて逃げゆく雀
単純な反復作業繰り返す一週間の作業工程
文明の力に吾も流されて体細胞を退化させゆく
不思議なるマネーゲームの中にゐる泥沼不況吾の日常
空港の拡張工事の傍らの防空壕の変はらず眠る
漆黒の暗闇の海沖合を通りゆく船のみ輝きぬ
球面の暗闇照らす燈台の光頭上に回転したり
線となる雨の強度にビニールの傘を震はす水の重力
吾の見る視界の全て太平洋そして空とを結びたるブルー
メビウスの輪となり吾の肉体を触れて消へゆく六月の風
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春の足音
灰色の雲支配する十二時の吾の見上ぐる視界の全て
降り出した雨がだんだん濡れてゐる大地の領域拡大してゆく
雨音のリズムは強き北風に合はせてポタリ悲しくポタリと
安全と危険の螺旋のその中に吾も含まれ渦巻の中
警戒の範囲を狭め少しづつ吾に近づくつがいのキジバト
青白き月の光を浴びながら吾は一人に夜道を歩く
ついさつき通り過ぎたる自転車の後に広がる真つ白な息
夕暮れの無人駅にて灯りゆく家の明かりを見ながら汽車待つ
空間にばらまかれゆく杉花粉吾の体に襲撃してくる
ランダムな風に抱かれてあてもなくただぶらぶらと散歩する午後
朝と夜違ふ温度を積み重ね確実に来る春の足音
新鮮な朝の空気を取り込んで新たな気持ちに今日の始まる
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ランナーズ・ハイ
あやとりの如く言葉じゃ伝はらぬテレパシーでもあればいいのに
暖房に吾の水分奪はれて思はず飲み干すスポーツドリンク
弾けゆくソーダ水の泡よりも希薄な溜め息フッと吐き出す
オリオンに向かつて浦戸大橋を両腕を振り黙々走る
思い切り走りゆくほど体内の酸素交換強くしてゆく
勢いをつけて坂道駆け下りる吾の体を重力にして
体内の水分蒸発するほどに体だんだん軽くなりゆく
ランナーズハイに近付く脳内と視覚聴覚押し寄する白
一日中止まない雨に休眠の状態となる吾の肉体
何故だらう昨夜の夢はバネとなり飛び起くるほどのホラー三本
小説がリアルにせまる南極の溶けゆく氷と日本沈没
アウストラロピテクスよりも進化せし吾の肉体21世紀へ
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空白の時
体内を無数の電子駆け巡り吾の両腕両足動かす
偽りの瞳の中に本当の吾の真実歪められゆく
正直と嘘とが吾の体内で今日も静かに混沌となる
晴天に変はる瞬間曇り空吹き飛ばしゆく南向きの風
人生の歯車何処かで狂ひたる人間達の増殖してゆく
ごまかしの利かない吾の表情が鏡の中でしかんだ顔する
円形を描き飛びゆく鳶の影吾を囲みてくるりくるりと
自在なる時空の中にこの吾のちいさな存在示す事なく
眠れない夜は時計の秒針と頭の羊の群れに苦しむ
今日もまた時間の罠に捕はれて機械のやうな一日過ごす
価値観の崩壊となるこの吾の新たな経験体の中へと
目の前に広がる青の海と空心の中に空白の時
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バッハの譜面
長靴の底より清流四万十の冷たき温度吾に伝はる
講演会視線感じて振り向かば二匹の鯉の泳ぐ絵のあり
楠の大樹の下に吾一人バッハの譜面頭に描く
一枚の尾羽を落とし青空の中へ消ゑゆく一羽のむくどり
手つかずの自然の残るそれだけが財産となる今の世の中
空想の産物だけがこの吾の夜の時間を支配してゐる
十二時の時計と共に少しづつ月下美人の花閉ぢてゆく
闇の王梟の鳴く森の中呼吸整へジョギングしたり
背後からせまる気配にとまどつて振り向けどただ広がる暗闇
深海の底まで辿り付けさうな眠りに付きたる吾の脳内
観覧車一回二回回りゆくそれを見ながら弁当を食ふ
土煙巻き起こしながら思ひ切り空に飛び立つ鳩鳩鳩鳩
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風の誘惑
インディオの声の聞こゑる肺胞の奥に届かす酸素の中に
一瞬の早業にして遡上せし鮎をごいさぎ捕らへ呑込む
雨上がりアスファルトにある水溜まり青空写しそらいろになる
穏やかな言葉の裏にヒトラーに似たる冷たさ吾も持ちたり
スクエアな頑固な心溶かしゆくモーツアルトの優しきリズム
太陽の南中角度西寄りに傾く頃に広げる弁当
午後三時アポロのやうな半分の月は静かに青空の中
緩急をつけたる風の誘惑にのつて気ままにハンドルを切る
ドラキュラの血統示すかの如く吾の頭上を蝙蝠の飛ぶ
街中を抜けてだんだん暗くなる夜空の中に増ゑてゆく星
皮膚呼吸鈍る感覚天空の気圧の下がるヘクトパスカル
高速のエレベーターを下るほどミクロの視界マクロとなりぬ
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モラル
脳内にY2Kを意識してパソコンデータの整理をしたり
金銭を人質にして沖縄の基地問題の政府進める
変化せし時代の流れ変化せし地球環境吾もその中
同じ顔ばかり貼り付き流れゆく情報社会に捕はるる吾
バーチャルの中に心放棄して現実漂ふ虚無の若者
情報の秘密化さるる世の中と低下してゆく人間のモラル
核兵器持たぬと誇る日本のプルサーマルの大国となる
巨大なるビッグシティに奪はるる吾の小さき夢と欲望
見上げたる吾の視界を二分して西から東に駆ける流星
モルモット状態になる仕事場の実験台のやうな毎日
一瞬に光と影の交差せし木立の下の林道の中
生まれたてのデータが吾の体内の中より新たな世界広げる
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青の球体
鉛色せし雨雲のだんだんと見上ぐる青空覆ひ隠しぬ
四次元の空より吾の肉体に突然の雨無情に濡らす
無言から始まる朝の時間帯ただ黙々とパン食べてゐる
窓の外眺むる視界燕飛ぶ秒速以下の瞬きの中
意志を持つ風に阻まれ少しづつ沖へと進む小さき漁船
望遠鏡持ちて室戸の海眺めマッコウクジラの姿を探す
青色の球体の上伸びてゆくスカイラインを車に進む
散漫になる注意力両頬を叩きハンドル握り直しぬ
ゆつくりと水平線へ沈みゆく太陽に見ゆる巨大な黒点
少しづつ静かになりゆく夜の闇に漁船の音のみ響き渡れり
地上にもプラネタリウム落ちてきたそんな夜景を峠に眺むる
背後から近づく気配振り向かば森羅万象の暗闇広がる
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夜桜変化
桜咲く国道をゆくいつもより少しスピード遅くしたまま
杉花粉舞ひ飛ぶほどにだんだんと奪はれてゆく視覚嗅覚
春風に舞ひ飛ぶたんぽぽわたぼうし吾の右肩に不時着したり
一日の長く感ずる雨の日は時計の針の虜となりぬ
窓ガラス落つる雨粒重なりてやがて静かにサッシ流るる
水溜まり八双飛びに身をかはし降り立つ地面に土煙立つ
雨に散る桜の花弁ボンネットの上に貼り付き満開となる
だんだんと強くなりゆく日を浴びてムルチコーレの黄色輝く
前方を進む車に巻き上がるアスファルトに散る桜の花弁
信号の隣に咲きし夜桜の色変化する赤青黄色と
用水に散りたる桜意志を持つ如く互ひに並び流るる
満開の桜に魂奪はれて即身仏のやうに天仰ぐ
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瞳・流線形
デパートのショーウインドウのマネキンが最先端の春を装ふ
西風のリズムに合はせ土佐湾の大波小波白く重なる
眠らない街の片隅ハンターの瞳を持ちて闇を打ち抜く
アルコール溶けてゆくほど肉体も瞳も流線形に変はりぬ
青白き蛍光燈に照らさるる昼間と違ふ孤独の素顔
早朝の電話のベルが目覚めたくない吾の夢破壊してゆく
二日酔ひ一日なにもしたくないだからごろ寝で過ごす日曜
ペンギンのやうに両手にバランスをとり歩きゆく堤防の上
光から影へと続く明暗のしまうまの中吾歩きゆく
乱反射するアスファルト紫になりゆく視界右手に覆ふ
海沿いの道路に一人立つ吾の勝手気ままな風に吹かれて
沈黙の吾の心を埋めてゆくいろんな場面の出会い感動
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希望の破片
毎日の仮面の中に消されゆく本来あるべき吾の横顔
こたつへと奪はれし吾の体内の水分蜜柑を食べて補ふ
脳内のさもしい心この吾の努力の欠片駄目にしてゐる
個体から人込みの中移動せし吾を無数の誘惑つつむ
契約の社会の中に人間のモラルの低下ばかりの目立つ
海の青空の青よりクリアーな気持ちになつてみたい時には
少しづつ若いと言へぬ年齢の吾になつてゐるのだけれど
ももいろの月の光を浴びながらただ静かなる海を見てゐる
一人歩く夜の街角嗅覚に絡み離れぬシャネルの5番
新たなる予感心に秘めたまま情報の社会を今日も生き抜く
突風を追ひこし吾は疾風になりてアクセル強く踏み込む
ブランニューデイの彼方にこの吾の希望の破片眠つてゐるかも
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アジアの果てに
踏みしむるたびカサカサと音立てし枯れ葉のリズム少しかなしく
大都会沈む夕日の色染めるビルの山脈硝子の紅葉
権力の魔物に呑まれ偽りに変はる真実吾の行動
平静を装ひながら体内のアドレナリンを分解しせり
真実のことばはいつも閉ぢてゐる何も言はない唇の中
劣化するコンクリートのトンネルを無意識のまま通りゆく吾
真面目でも不真面目でもなく一日の時間の半分無難に過ごす
吾もまた空を見上げて夢を見るスターダストのかけらのひとつ
縦文字の日本文化に寄生する理解不明なコギャルの造語
なんとなく一日の過ぎなんとなく損した気分になつた休日
吾よりも次の世代は火星へと旅行に行く者いるのだらうか
自転する地球に合はせ吹く風の行方吾立つアジアの果てに
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訪問者来る
風吹かばいちょうの木の葉の舞ひ踊る独楽のやうに回転しながら
体内のDNAを破壊して栄養とする今日の食卓
電飾の街に流るる有線の曲に合はせてステップを踏む
気まぐれな風に合はせて飛んでゆくビニール袋空へ空へと
体内の時計だんだん夜型に傾ひてゐる早く寝なくちゃ
北風の吹く度家の勝手口開きて見ゑない訪問者来る
そびえ立つビルの林に呑込まれ吾も小さき地蟲となりぬ
重力の壁を乗り越え青空の彼方に放つ紙の飛行機
突風に舞ひ飛ぶCAP空の色と同化してゆくドジャースブルー
スラロームしながら吾は人込みをかはして進むビジネス街を
吐き出した息を両手にガードして冬の街角友人を待つ
目の玉に映る青空流れゆく冬の季節を泳がせてゐる
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戦闘機飛ぶ
臨界の事件の後も解決の出来ぬ言ひ訳ばかり飛び交ふ
冗談ですまされぬほど傷付けて平気な人間多いねこの世は
譲り合ひ精神のない駐車場気ままにハンドル切る車の群れ
人間の心の中に本人にも理解の出来ぬミステリーのある
平然と車からごみ捨てし者モラルの低下に心の痛む
過疎の村の反対耳を貸さぬまま山より低く戦闘機飛ぶ
戦争を知らぬ人間戦争より残酷な心内に秘めたり
つむじ風巻き起こしたる大型のダンプの道を自転車にゆく
体内にチェルノブイリのウラン抱き飛ぶ雁の群れレンズの中に
プライバシーネットワークを流れ出て吾の会話もワールドニュース
使い捨て社会の駒にならぬやうに強固な知識の鎧をまとふ
死亡事故起きて初めて陳情を出してた場所に信号出来る
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オータム・レイン
朝夕の気温とともに吹く風の昼は海から夜は山から
細胞の密度を高め寒くなる風に逆らいコンビニへゆく
体内を輪廻の如く流れゆく動脈静脈感じ走れり
おまもりのやうに吾の体内を規則正しく鼓動波打つ
裏路地のジプシーとなり一時間毎に酒場を飲み歩きゆく
自動車の窓を開けたら空色の服に溶け込むオータム・レイン
モノクロの景色の中に広がりし雨から目覚むる晴れの一瞬
木の枝に揺るる水滴プリズムとなりて七つの光を放つ
円描く事も出来ずに天空の鳶強風に逆つて飛ぶ
黄昏の時間の中のオレンジに吸ひ込まれゆく吾の肉体
現実は夢のやうにはならなくて溜め息ばかりを夜空に溶かす
次々と変化してゆく人生のスリルとリアル脳へと刻む
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