By Projectマッコウクジラ
ここでは、総合誌等で賞をとったり、掲載されたモノを主に紹介しようかな〜と思っているコーナーです。どちらかと言うと、挑戦的な内容でなく、オーソドックスな形式のモノをこのコーナーでは載せていこうと思っています。
激甚災害 (H11 第14回短歌現代新人賞 佳作)
トランシット二秒に測る山向かう車に行けば一時間半
ブルドーザー右往左往する中をヘルメットだけの装備で歩めり
青空へダイビングするかの如く吾は三角点へと向かう
平日の三角点に吾ひとりトランシーバー握り締め立つ
昼休みトランシットを空に向け真昼の月に焦点合はす
災害で壊れし堤防の写真撮り激甚災害の指定を待てり
無力なる吾の目の前堤防のぼとりぼとりと水に崩るる
崩れたる堤防洗う濁流の深くしてゆく被害の爪痕
言葉さへ失ふ程の惨状を網膜に刻む現実なのだと
状況の全容把握出来ぬまま雨の降る中作業者に乗る
マイブーム測量にして昼も夜も車輪となりて吾は働く
クォーツの針に分解されてゆく吾の心のあせり苛立ち
今晩も眠る事なき不夜城の会社の中の沈黙に一人
苦しいと言へぬ状況過労死を覚悟しながら仕上ぐる図面
右指で177をプッシュして明日の作業の計画を組む
曼朱沙華真紅に燃ゆる畦道に境界杭をハンマーに打つ
浮雲の影が測量作業する吾の体を横切つてゆく
自動車のライトにスタッフ明らせてレベルに測るミリ誤差範囲
体内の全てを強きバネにして縦横無尽に斜面登れり
倒れゆく木々の悲鳴を聞き入れず吾は無残に森切り拓く
型枠を外せば無垢の擁壁が緑の中に違和感広げる
測量の合図にマル書く両腕をモンシロチョウの素早く潜れり
午後一時弁当たいらげ大の字にしろつめくさのじゅうたんの上に
杭を打つ音に驚く椋の木のすずめの空にばらばらになる
かじかめる手に熱い息吐き出してトランシットのボタンを押せり
むらさきの闇へと暮るる森を抜けトランシットを持つ手を右に
測量に立ち入る雪山緩斜面に吾の足音のみ刻まるる
レベル持ち歩く行方はかげらうに歪んで見へる室戸への道
夕暮れの長くなる影従へて測量道具を作業者に積む
道端の地蔵に小さく礼をする今日の作業の無事の感謝を